空洞放射 (Cavity radiation)

熱放射の強さを実験で正確に測定する場合,それが物体の反射率に依存することがネックになります。つまり,通常の物体を使って実験すると,その物体の分光反射率が熱放射の波長分布に影響を与えてしまいます。

すべての波長の光を完全に吸収する物体(完全黒体)があればよいのですが,そんなものはありません。身近なものでは,プリンタやコピー機のトナーが完全黒体に近いものですが,完全に光を吸収するわけではありませんし,あまり高温にもできません。

そこで,右図のような空洞を使って実験が行われました。
これは小さな穴が開いた焼き物の容器を使います。外から穴に入射した光は,内部で乱反射を繰り返すうちにほとんど吸収され,外には出てきません。ですから,この穴を外から見れば完全黒体に近いものです。

容器全体を炉に入れ一定温度に保っておき,穴から出てくる光を分光すれば放射強度の波長分布を測定することができます。これにより,さまざまな温度における放射強度曲線が正確に測定されました。

この空洞放射の実験でも,容器の材質の影響があり,特定の波長においてプランク分布からずれてしまいます。
現在では,宇宙の背景放射の測定結果が,もっとも美しいプランク分布であると言われています。