ニュートンは,天体の運動や地上の放物運動を分析して,次の万有引力の法則を見つけました。
質量が と
である2つの物体が
距離
にあるとき,
2物体の間には次の引力
が働きます。
ここで,は万有引力定数と呼ばれる定数で,
という非常に小さな値を持っています。
(参考) 万有引力は,非常に弱い力です。
例えば,質量が の2物体を
の距離に置いたときの引力は,
となります。
(ニュートン)は約100グラムのものの重さですから,この力は
グラム,つまり10万分の7グラムのものの重さ程度です。
そのため,身近にある物体が引き合っていることに気付くことはありませんが,精密な実験をすればこの力を測定することも可能です。
万有引力は本来非常に弱い力ですが,地球という巨大な物体(質量 )の上で生活する我々には大きな作用があります。
地球と質量 の地上の物体の間に働く万有引力
は,地球がその中心に収縮した場合と同じになります。そこで,地球の半径を
とすると,引力は,
となります。ここで, は重力加速度と呼ばれる量で,地上では,
という値を持っています。
すなわち,地球上にある質量 の物体は,
という力で地球に引かれます。
重力加速度をという記号で表すのは世界共通ですが,グラム(
)という単位と混同しやすく,つまづきの原因にもなっています。
(参考) 実際には,重力加速度 の値には,地球の自転による遠心力の効果を含めます。
赤道では遠心力が大きいので の値は小さくなり,緯度が高くなるにつれ
の値は大きくなります。
欧米の教科書では,地球上の重力加速度として 9.81m/s2 という値が使われることが多いようです。
(参考) = 1 「重」
の値は,MKS単位では 9.8 m/s2,cgs単位では 980 cm/s2 ですが,質量
の物体の物体に加わる
重力 を g重 や kg重 という単位で表したいときにはどうなるでしょう?
このときは,質量 の値と単位に「重」という文字を付けるだけになりますから,
は 1kg重/kg または
1 g重/g ということになります。機械的には,= 1「重」 というわけですが,もちろん「重」という単位が
あるわけではありません。
問 「地球はどれくらいの力で持ち上げることができる?」
「重さ」という言葉は,地上の物体に加わる重力,つまり万有引力という意味で使うのが正しく,力 のことです。
日常的には,「重さ」と「質量」
はよく混同されるので注意が必要です。
物理が専門の人間でも「質量が大きいもの」という代わりに「重いもの」と言ったりします。
この場合は,感覚的にわかりやすい表現を採用しているだけで,おそらく間違ったことは言っていないでしょう。
例 「重いものは,動かしにくい。」 (話を地球上に限れば正しい)
通常「重さ」 は地球と物体間の万有引力のことですが,月の上での「重さ」は月と物体間の引力になり,その大きさは変わります。
同じ質量 の物体でも,地球上では「重さ」は重く,月の上では軽くなり,人工衛星内では「重さ」は0になります。
人工衛星内では,物体の「重さ」は皆0でしょうが,質量が大きなものは動かしにくいことに変わりはありません。
質量はその物体だけで決まる量ですが,重さは環境によって変わってきます。
万有引力の法則は,電磁気学のクーロンの法則
ただし,
と同じ,逆2乗法則です。万有引力の法則では,電荷 が質量
に置き換わります。
この質量は,電荷がクーロン力の源であるのと同様,重力の源と考えられます。
一方,質量 は運動方程式
からも定義されます。こちらは物体の動きにくさ(より正確には慣性)を表す質量です。
運動方程式に現れ,慣性の大きさを表す質量を慣性質量,万有引力の法則に現れ,重力の源と考えられる質量を重力質量と呼びます。
本来,この2つの質量は全く別であってよいはずなのに,何故か等しいのです。
慣性質量と重力質量の差を測定する実験も行われましたが,差は見つからず,非常に高い精度で2つの質量が一致していることが確認されています。
全く違ってもよいものが,偶然,正確に等しくなるということは考えられません。
これは従来の物理学の理論には含まれていない何らかの新しい規則があることを示唆しています。
実際,この問題は一般相対性理論によって解決されました。
一般相対論では,重力質量と慣性質量が理論の枠組みとして等しくなるようになっています。(等価原理)
一般相対論は,万有引力の法則に代わる新しい重力理論です。
これによると,ブラックホールの近くのように非常に重力が大きいところでは,万有引力の法則が成り立たなくなります。しかし,通常は万有引力の法則がよい近似として使えます。
現在では,一般相対論は,ニュートン力学よりも正確で,適用範囲が広い理論であることが確認されています。