定常状態の解(1次元)

1粒子(例えば電子)の定常状態は,ポテンシャル が与えられると次の手順で求めることができる。

(1) ポテンシャル の具体形 → ハミルトニアン が決まる。 

(2) 時間に依存しないシュレディンガー方程式 が具体的に書ける。すなわち,
                    (1)

(3) この解として,エネルギー が求まる。

なお,このとき時間を含む波動関数は,
     
で与えられる。

全エネルギーとポテンシャル

ポテンシャル と全エネルギー を与えると,粒子の運動の様子が決まる。

例えば,ポテンシャルと全エネルギーが下図のようになっていると,古典論では,粒子は の間で振動する。

これは,粒子が引力のポテンシャルに閉じ込められている場合で,この状態を束縛状態という。

同じポテンシャルでも,下図のように全エネルギーが大きいと,粒子は全領域を移動できる。

こちらの状態は自由状態と呼ばれる。
実際には,遠方から飛んできた粒子がポテンシャルで散乱されるという場合を扱うことになるので,散乱問題とも言われる。
(1次元では,散乱というよりも,反射や透過ということになるが。)

(参考)ポテンシャルは,力が0となるところを に選ぶ。通常この点は,無限の彼方になる。
 そのため,引力のポテンシャルは,斥力のポテンシャルは となる。
 したがって,束縛状態のエネルギーは,自由状態のエネルギーは となるのが普通である。

境界条件とエネルギースペクトル

束縛状態なら で, となる解を求める。これは,境界条件と呼ばれる。
この条件から,許される は特定のとびとびの値になる。すなわち, は離散的になる。

任意の に対してシュレディンガー方程式(1)は解を持つが,そのほとんどは が無限大に発散してしまう。
で, となるのは,特定の のときだけである。

これに対し,自由状態なら,通常無限の彼方で波動関数は運動量(したがって波長)が決まった正弦波になるとする。
この場合は, ならどのような値でもとることができるので, は連続的になる。

解の一般的性質

シュレディンガー方程式から,以下のような波動関数 の振る舞いもわかる。

古典論で許されるのは, の領域であるが,このとき(1)より,
     
という形になる。
したがって, なら接線の傾き減少していき のグラフは上に凸となる。
一方, なら接線の傾きは増加していくので下に凸となる。
そのため,この領域でのは,sin関数のように振動する関数になる。

古典論で禁止される領域 では,
     
であり, なら下に凸, なら上に凸のグラフになる。
という条件も加味すると,指数関数的に減少していく関数になることがわかる。


束縛状態の例

1. 井戸型ポテンシャル 

井戸型ポテンシャルとは右図のようなもので,古典論では,全エネルギー より小さければ,
粒子は の範囲で振動する。
このとき,量子論でも粒子の存在確率は, の範囲で大きくなるが,その外側で粒子を見出す確率も0ではなくなる。

剛体壁ポテンシャル

特に, のときは,この範囲の外で となり,簡単に計算ができる。

波動関数は,
     ,  
となり,全エネルギーは,
     
という離散的な値をとる。

※剛体壁ポテンシャルの詳細は,こちらを参照のこと。

 (演示ソフト)  剛体壁ポテンシャル    (右クリックで「対象をファイルに保存」してから実行してください。)

井戸型ポテンシャルの束縛状態もほぼ同様であるが,古典論では粒子が存在できないところにも「浸み出し」がある。

 (演示ソフト)  井戸型ポテンシャル

鎖状の高分子や色素の電子には,鎖上をほぼ自由に動ける電子(π電子)があり,この運動は1次元の井戸型ポテンシャルで近似できる。

2. 単振動(調和振動子)

単振動を起こす力は の形をしており,そのポテンシャルは,
    
である。古典論での角振動数  を使うと,量子論のエネルギー準位は,
     ,  
となり,エネルギー準位は等間隔になる。

最低エネルギーは,0でないが,これは不確定性原理からも理解できる。

ここでは省略するが,波動関数も具体的に書き下すことができ,量子数 が1増えると,節が1つ増えるのは井戸型ポテンシャルの場合と同様である。

存在確率は, が大きくなると,古典論の存在確率(∝速度の逆数)に近づいてくる。

 (演示ソフト)  単振動(調和振動)


自由状態の例

1. 階段型ポテンシャル

下図のような階段型ポテンシャルに,左側から粒子が入射してくる場合を考える。

左図のような場合,古典論ではなら段差のところで粒子は必ず跳ね返され,なら粒子は段差を通過していく。
しかし,量子論では粒子は波動であるので,であっても段差のところで一部反射される。

右図のような場合も,古典論では粒子は必ず段差を通過していくが,量子論では一部反射される。
特に,エネルギーが小さい場合は,反射が大きくなる。

 (演示ソフト)  階段型ポテンシャル

2. トンネル効果

下図のようなポテンシャル障壁に,左側から粒子が入射してくる場合を考える。

のとき,古典論では粒子は壁で必ず跳ね返されるが,量子論では壁を通り抜けていく確率もある。
ポテンシャルの障壁を越えて,古典論では許されない領域に粒子が出ていく現象をトンネル効果という。

トンネル効果は,原子核の崩壊やエレクトロニクスでごく普通に見られる現象である。

なお,のときにも反射が起こるのは階段型ポテンシャルと同様であるが,今度は壁の前面と後面の両方で反射や透過が起こり,それらを重ね合わせた効果を調べなくてはならないので少し複雑になる。
エネルギーの大きさと壁の厚みにより反射率,透過率が微妙に変わってくることになる。

 (演示ソフト)  トンネル効果