水の波は表面波と長波に分けられる。 また波動の元になる復元力,すなわち表面を平らにしようとする力には,重力と表面張力がある。ただし,表面張力は表面波のときのみ効果を現す。
ここでは,それぞれの水波の速さ を簡単な導出法で示す。
表面波は表面付近だけが振動している波であり,水面から下にいくと急速に振幅は小さくなる。ここでは,表面の各点が等速円運動をしているトロコイド波を考える。
表面の各点は半径 の円運動をしており,その振動数を
とすると,各点の速さは
である。波の速度を
,波長を
とすると,
であるから,
(1)
である。
この波を,波の速度 と同じ速度で進む観測者から見ると,下図のように,水面の形は変化せずに水は後方へ流れていくことになる。
この流れは定常流であり,水面は流線の1本になる。また,水面の圧力はどこでも大気圧と考えてよい。したがって,ベルヌーイの定理より,
, すなわち
(2)
が成り立つ。ここで, は水の密度,
は重力加速度である。
式(2)に(1)を代入すれば,,したがって波の速さは次式で表せる。
(重力表面波の速さ)
ここでは復元力として重力のみを考えたので,これを重力表面波という。
これを,振動数で表すと, より,
となる。
波長がごく短いときには,復元力として表面張力も効いてくる。ベルヌーイの定理において,表面張力による圧力変化も考慮すれば,表面波の速度は次式になる。
(表面波の速さ)
ここで, は水の表面張力,
は水の密度である。
波長が数cm以上あれば第1項の重力表面波が主になり,波長が1cm以下の「さざなみ」であれば第2項の表面張力波が主になる。
問 水の表面波の速度が最も小さくなる波長を求めよ。
水深 に比べて,波長が十分長い波を長波という。表面波とは異なり,水底近くまで水の変位は大きい。
表面が楕円振動をしているとすると,水面から深くなるにつれて,水の変位はより扁平な楕円振動になる。(縦波に近い波動になる。)
この波を,波の速度 で進む観測者から見ると,水面の形は不変のまま,水が後方に流れていくことになる。
表面は流線になるのでベルヌーイの定理が使える。表面の鉛直方向の振幅を とすると,表面波の場合と同一の式が得られる。
, すなわち
(3)
また,定常流であるので,単位時間にAの断面を通過する水量とBの断面を通過する水量は等しい。(この関係を「連続の式」という。)これより,
, すなわち
(4)
が得られる。
(3), (4) より,,すなわち,
(重力長波の速さ)
が得られる。波の速さは,水深の平方根に比例する。
例 地震に伴って発生する津波は重力長波である。平均水深 である太平洋や大西洋を伝わる津波の速さは,
となる。時速に換算すると であり,ジェット機並の速さである。
問 水深が ,
,
のときの津波の速さを求めよ。
問 遠浅の海岸での波は,海岸線に平行に打ち寄せるのは何故か。
(一方,水泳プールの波は,壁に平行にはならない。)