ここでは,温度に対する1次元の熱伝導方程式
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(1) |
をフーリエ級数を使って解く方法を示す。は温度拡散係数
である。
具体的な対応物としては,側面からは熱の出入りがない長さ
の棒や,x方向にしか熱の移動がない厚さが
の板を考えればよい。
熱伝導方程式は偏微分方程式であるので,具体的な解を得るには,初期条件と境界条件を定めなくてはならない。
初期条件
初期条件として,時刻における各位置の温度が具体的に与えられているとする。
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(2) |
境界条件
境界条件とは,および
における条件のことであり,ここでは次に示す簡単な2つの場合を考える。
(B1) 両端が一定温度に保たれている場合(等温境界条件)
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(3) |
※両端の温度が異なる場合は,このページの最後を参照。
(B2) 両端で熱の出入りがない場合(断熱境界条件)
熱の移動がないときは,温度の勾配が0になるので,両端で次式が成り立つ。
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(4) |
変数分離
と置いて(1)に代入してみと,
より,
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(5) |
となる。この式の左辺はのみの関数,右辺は
のみの関数であるから,この式が成立するのは両辺とも定数の場合しかない。この定数を
とすると,(5)式は次の2つの式に分解できる。
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(6) |
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(7) |
これらの常微分方程式の一般解は,
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(8) |
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(9) |
となる。
一般解
まず境界条件(B1)の場合を考える。(9)と(3)より,
,
, すなわち,
(
)
となる。そこで,許されるの値を,
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(10) |
と書くと,各に対して
,
も決まり,
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(11) |
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(12) |
となる。その結果,
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(13) |
が解であることがわかるが,元の方程式(1)が線形であることから,異なるに対する解の和も解になる。
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(14) |
これが,境界条件(3)を付けたときの方程式(1)の一般解になる。
大きいの項はすぐに減衰するので,少し時間が経過すると温度分布は単純なsin曲線に近づくことがわかる。
一般解(14)の中の定数は,初期条件(2)で具体的に決まる。(2)と(14)より,
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(15) |
となるが,これはのフーリエ正弦級数である。すなわち,
を奇関数
としたときの,区間
におけるフーリエ級数であり,その係数は次式で与えられる。
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(16) |
境界条件(B2)の場合も同様に一般解を求めることができる。
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(17) |
であるから,これを(4)に代入して,
,
, すなわち,
(
)
であることがわかる。が満たす式は同じであるが,今度は
が0の場合も含まれる。
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(18) |
したがって,一般解は次式になる。
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(18) |
初期条件(2)を使うと,係数を決めることができる。
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(19) |
(19)はのフーリエ余弦級数であり,その係数は次式で与えられる。
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(20a) |
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(20b) |
両端が一定温度に保たれているが,例えば,
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(21) |
のように,両端の温度が異なる場合を考える。
十分時間が経過して()定常状態になった場合,すなわち温度の時間変化が無くなった場合は,
より,
となる。最終的な温度分布をとすると,
より,
は
の1次式になる。特に,(21)の場合は,
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(22) |
となる。これは,熱伝導方程式(1)から導ける一般的な結論であり,十分時間が経過すると,温度分布は直線状になる。
※途中で,放熱や吸熱がある場合はそうはならない。このときは(1)式自体が成立しない。
そこで,
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(23) |
とおくと,は熱伝導方程式(1)を満たし,その境界条件は,
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(24) |
となるので,の一般解は上と全く同様に解ける。
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(25) |
また,初期条件(2)より,
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(26) |
であるから,係数は次式で与えられる。
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(27) |
結局,両端が異なる温度に保たれているときは,まず最終温度を求めておけば,
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(28) |
により解が求められる。