重心 (質量中心)

右図のように,質量が無視できる変形しない棒の両端におもりが付いている物体を考える。

2つのおもりに加わる重力は平行なので,これは合成することができる。 合力の作用点は図の直線 の上の任意の位置にとれる。

※2つの重力は地球の中心で交わると言う方が正確かもしれない。こう考えても,結果はほとんど同じになる。

次に,この物体を少し傾ける。物体に対する重力の向きが変わるが,同じように2つの重力は合成でき, 今度は作用点を直線 の上の任意の位置にとることができる。

このとき,先の直線 と 今度の直線 は 必ず1点 で交わる。 別な角度に傾けても,やはり合力の作用点は を通る直線上にある。

この点重心(center of gravity)といい, 物体の各部分に働く重力の合力の作用点はいつでも重心 と考えてもよい。

力のつりあいを考えるだけなら,物体に加わる重力は重心に集中していると考えて構わないことになる。

物体の質量の分布が決まれば,重心が1つ決まる。
この点は,重力が無くても質量分布の中心として定義できるので,質量中心(center of mass)ということもある。
質量中心は,重力の有無には無関係に,力学では重要な役割をする。


右図のように,おもりが3つある場合も,次のようにして重心を求めることができる。

(1)まず,, のおもりの重心 を求める。 そこに, の質量が集中していると考えてよい。

(2)次に, のおもりの重心を求める。 これが,全体の重心 になる。


質量が連続的に分布している場合も,それを小さな部分に分割して重心を求めることができる。(→積分により重心を求める

特に,物体の質量分布が対称性を持っているときは,重心の位置が簡単にわかる場合がある。 例えば,一様な球や直方体の重心はその中心にあることがすぐにわかる。

また,右図のような三角形の板の重心は,幾何学でいう「三角形の重心」と一致する。

多角形の板なら,三角形に分割し,それぞれの重心と重さをを求め,それらを合成することにより,全体の重心を求めることができる。

 三角形の重心を通る直線で三角形を2つに切ると,両者の質量は等しくなるか?
(ヒント) 頂点を通る直線で切ると確かに等分されるが,ある辺に平行な直線で切るとどうなるか考えてみよ。

 針金で各辺の長さがa, b, a である二等辺三角形を作る。この重心の位置を求めよ。
 さらに,この重心の位置と,同じ二等辺三角形の重心の位置とを比較せよ。
(ヒント) a=b のときのみ両者の重心は一致する。

 針金で三角形を作ると,その重心は各辺の中点を頂点とする三角形の内心になることを示せ。

やさしい重心の求め方いろいろ


変形する物体にも,各瞬間の重心の位置がある。

重心が物体の外部に位置することも珍しくはない。

問1 人間がジャンプした後は,重心は放物運動をする。
 走り高跳びの一流選手の重心はバーの下を通っていくそうだが,ジャンプ後選手がどのような姿勢をとっているか考えて見なさい。


重心と安定性

つりあいの種類

床の上に物体が置かれて静止しているとき,物体には

という2つ力が働いており,これらがつりあっている。

物体が少し傾いたときに,重力と抗力の位置関係がどうなるかにより,つりあいは次の3種類に分けられる。
不安定なつりあいは,ごくわずかなゆれや風により倒れてしまうので,実際には,実現しない。

種類 物体が傾くと
重力と抗力による回転力は 重心の高さは
安定なつりあい 物体を元の位置に戻そうとする 高くなる
不安定なつりあい 物体をさらに傾けようとする 低くなる
中立のつりあい 働かない 変わらない

安定なつりあいでは,物体が少し傾いたときに復元力が働く。
不安定なつりあいの場合,わずかな揺らぎがあると,その揺らぎを増幅する方向に回転力が働くので,実際には実現しない。
中立のつりあいも,顕微鏡レベルで見れば安定なつりあいになっていることがほとんどでしょう。

問2 新しい卵は表面に細かい凹凸があるため,コロンブスのように卵を壊さなくても立てることができる。
 このようにして立てた卵の状態は,上記のどのつりあいか?

(参考) Two-Circle Roller
 2つの円板を図のように直角に組み合わせると,ころころとよく転がる。
 特に,2つの円の中心間の距離を半径の 倍にしたときが理想的で,重心の高さが変わらず,中立のつりあいになる。
( A.T.Stewart, Am. J. Phys. 34, p.166(1966) )
 水平方向に一様に伸縮させても事情は同じなので,2つの楕円の組合せでも同じことが起こる。


物体の安定性(倒れにくさ)

同じ安定なつりあいでも,倒れやすいものと倒れにくいものがある。
細長いもの(鉛筆など)を鉛直に立てると,いかにも不安定で,実際倒れやすいのは日常経験することである。

安定なつりあいにあるものが倒れるのは,その物体がある角度以上傾いたときになる。右図からわかるように,倒れるときの傾斜角は物体により異なる。

物体が倒れない範囲での最大の傾斜角は,重心が物体の底面の一辺の真上にきたときになる。(このときは,不安定なつりあいの状態になる。)
これ以下の角度なら,物体には復元力が働き,元の位置に戻るので倒れない。

このことを,次のように表現することもできる。
「重心を通る鉛直線が,物体の底面を通るときは倒れないが,底面の外に出れば倒れる。」

この表現の中の「底面」は,物体が床に接している面とは限らない。
例えば,4本足の椅子やテーブルの場合は,右図のように床と接している面積はごくわずかだが,重心を通る鉛直線が斜線の範囲をとおれば倒れません。
この斜線部のことを,床に接している面と区別するために,支持基底面ということがある。(当然,床に接している部分も支持基底面に含める。)

左図は,人が立っている状態を示している。支持基底面は,足の裏の面積よりも大きく,斜線で示した範囲になる。
足を広げて立つと,支持基底面も大きくなり,倒れにくくなる。
逆に,片足を上げると,支持基底面はもう一方の足の裏の面積だけになり,倒れやすくなる。


一般に,倒れにくいものの条件として,以下の3つが挙げられる。

  1. 底面(支持基底面)が広い
  2. 重心が低い
  3. 重い(質量が大きい=動きにくい)

1, 2 に関しては,下図で物体が倒れるときの角度を比較してみるとわかる。

3 に関しては,地震の時は重さはあまりあてにはならない。(慣性力=見かけの力 を参照)


問3 2足で歩くおもちゃの重心と支持基底面がどうなっているか調べなさい。

問4 図のような物体が回転したときの重心の高さがどうなるか考えなさい。
 横軸を回転角(),縦軸を重心の高さとしたグラフの概形を書いてみなさい。
 (安定な位置では重心の高さが極小値,不安定な位置では極大値になる。)