斜面を転がる球・円柱・円環

質量 の物体が受ける力は,
   重力 と 斜面からの抗力(垂直抗力 と摩擦力)
の2つであるが,それぞれを斜面に平行な向きと斜面に垂直な向きに分けて考える。

斜面に垂直な力は,重力の と斜面から受ける垂直抗力 であるが,物体が斜面に沿って運動するので,これらはつりあっている。

斜面に平行な力は,重力の と摩擦力 であり,斜面下向きを正にとり,この向きの重心運動と,重心の周りの回転を考える。
物体の半径を,慣性モーメントを,回転角速度を とすると,運動方程式は以下のようになる。

斜面下向きの重心の運動 (1)
重心の周りの回転 (2)
また,物体が斜面上を滑らずに転がるとすれば,
したがって (3)
という関係が成り立つ。

(1)(3)より, となり,さらに(2)を使って を消去すれば,
     
これより,角加速度 および加速度 は,

,   (4)
となり,いずれも一定になる。

等加速度運動であるから,初速度を,初期位置を とすれば,時刻 の速度と位置は, となる。

ちなみに摩擦力 は,(2)(4)より,  となり,これも一定である。

さて,球・円柱・円管の慣性モーメント は,それぞれ,
   球  ,  円柱  ,  球殻 ,  円管 
であるから,物体の加速度は,
   球  ,  円柱 ,  球殻 ,  円管 
となり,この順に小さくなっていく。しかし,同じ形状であれば,半径や質量には依存しない。なお, は,物体が回転せず,摩擦なしで滑り落ちるときの加速度である。


 上記の物体と斜面の静止摩擦係数を とするとき,物体が滑らずに転がることができる斜面の最大角を求めよ。また,この角度は,球,円柱,円管のいずれで最も大きくなるか。(どれが一番滑りにくいか。)

(こたえ) 物体と斜面間の垂直抗力は であるから,静止摩擦力 を満たす。 これより,滑らずに転がるための条件は, となる。これより,静止摩擦係数が同じであるとすると,
 ・同じ形状であれば,滑らない斜面の最大角は,質量や慣性モーメントにはよらないこと,
 ・同じ半径であれば,慣性モーメントが小さい方が斜面の最大角は大きくなる(滑りにくい)こと
がわかる。


位置エネルギーと運動エネルギーの関係

物体の高さが だけ下がったときを考えると,その落下時間 は, で決まるので,
   重心の運動エネルギーの増加  
   回転の運動エネルギーの増加  
となる。したがって,全運動エネルギーの増加は,
     
となり,重力がした仕事に等しい。

物体が滑らずに転がるときは,摩擦力はいつも静止した点に働くので仕事をしない。そのため,斜面を滑らずに転がる剛体については,力学的エネルギーが保存する。(ただし,このときの運動エネルギーには,回転の運動エネルギーも含めなくてはならない。)

※斜面が鉛直面内で曲線を描いているときも,斜面の微小部分を考え,上の を微小量 に置き換えると,
     
が示せるので,曲線状の斜面でも(滑らない場合は)力学的エネルギーが保存する。

※現実の物体では変形に伴い熱が発生し,その分は力学的なエネルギーが減少する。通常,この効果を「転がり摩擦」と称する。

逆に,物体が斜面上を滑りながら転がるときは,摩擦力が負の仕事をするので,力学的エネルギーは減少していく。

(参照)斜面の実験


(参考)固体と液体

ジュースの空き缶に水を入れて凍らせたものと,中が液体のままのジュースの缶を斜面で転がすと,どちらが速く転がるだろうか?
ジュースの缶の代わりに,ゆで卵と生卵を転がしてもよい。

内部が液体の場合は,固体とは異なり,内部が完全には回転しない。そのため,内部が液体である物体の慣性モーメントは,すべてが固体である場合に比べて小さくなる。慣性モーメント が小さいと,斜面を下る加速度は大きくなる。

液体が入った缶
Jackson K A et al, Viscous and non-viscous models of partially filled rolling can, Am.J.Phys. 64, 277-82